塩の江戸ゲ戦記

ソラノキオクを求めて

塩サイダー(@ShioCider_RUKIT)のエロゲ感想日記

ATRI -My Dear Moments- 評価 / 感想

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沈みゆく世界で、君を見つけた。

 

ATRI -My Dear Moments- とは

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Front Wing × 枕発のSF物。

Front Wingといえば過去にISLANDやグリザイアシリーズを手掛けられていることで有名ですね。

本作も島と海が舞台ですのでISLANDを彷彿とさせるものがあります。

 

原因不明の海面上昇で沈んでしまった町の人々とエリートだったが心が折れて挫折した主人公、そして海の底で眠っていた少女の姿をしたロボットが織りなす『心』と『復旧』の物語

 

本作の主人公(斑鳩夏生)はトンネルの崩落事故により足を失っているんですね。

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色々作品には触れていますが、四肢のいずれかが欠けている主人公というのは比較的珍しい気がします。夏生は物理的に、ヒロインであるアトリは精神的に未熟な部分があるので二人の関係が対照的に見えるのは良いですね。

 

持ち船のサルベージで祖母の遺産を引き上げる話になり、目的の場所へ向かうとアトリが眠っていて引き上げて一緒に暮らしていくという流れですね。

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(主人公がサルベージャーで海底のヒロインを目覚めさせて一緒に暮らすってどこぞの少年を彷彿とさせますね。)

 

本作の魅力

何といってもコスパでしょう。

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こちらの作品の価格ですが、なんと驚異の¥2,200(税込み)です。

あの伝説のゲーム『ファイナルソード』が¥1,890ですので、ほぼ1FS(ファイナルソード)と言っても差し支えありませんね。

 

ノベルゲームなんて大体¥8,000前後しますからね。

その中で¥2,200はもう実質無料と言っても過言ではないでしょう。

(↑画像の一番右がサウンドトラックなのですが、まさかのゲーム本体の1.5倍の価格設定というね)

 

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続いての魅力は非常に緻密に描き込まれた背景ですね。 

これが1枚1枚美しい。空や海、町の描き込みが細かいのはISLANDでも感じていたことなので、本作というよりFrontWingの強みと言えるでしょうね。

実際にそういう場所があるのではないか、自分もその場に足を運んでみたいと思わせるような魅力があります。

 

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他にも心温かな登場人物が何人もいる点ですね。

荒廃した町の中でも人々は元気なんだぞというのが分かると安心させられます。

島に来た主人公を子どもや町の人々が(学者)先生と呼んで慕ってくれるのでばらかもんっていう漫画を思い出しましたね。

 

道標を失い島に来た暗い主人公が、町の人々と過ごし徐々に明るくなっていく過程も成長を感じられて良かったです。

 

シナリオ感想(ネタバレ無し)

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短くまとまっていながらも必要な要素を兼ね備えている完成度の高いシナリオという印象でした。

EDはTRUE含め3つあるのですが、実質一本道で10時間もかからずに回収できました。ヒロインがアトリ一人で作品のテーマも分かりやすいので、進めていて理解に困るといった描写もなく、SFものでも世界観を受け入れるのに時間はかからなかったです。

 

テーマの一つの『復旧』も最初は子供たちだけで小さなことから行っていくのですが、それらを達成することで自信と信用が生まれ、少しずつ町の人たちも協力して話が広がっていくのも素敵でしたね。最初は曲がっていたり諦めのような感情を持っていた人たちも小さな成功を収めた夏生に感化され、少しずつ前向きになっていく過程も良かったです。知らない間に子どもたちやアトリのお陰で人付き合いが上手くない夏生のことを自然と町の人々が受け入れる描写も個人的に好きでしたね(ばらかもんが好きなので)。

SFにありがちな壮大な物語というのは尺の都合もありありませんでしたが、人々の温かさに触れつつ愛を育む良シナリオだったと言えるでしょう。

 

 

 

それではこれよりネタバレを含んだ感想に入ります。

以降の項目には物語の結末を含む重大なネタバレが含まれますので、未プレイの方は閲覧をここまでで留めることをお勧めします。

 

気になった方は是非体験版にでも触れてみてください。

 

 

シナリオ感想(ネタバレ有り)

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この作品を語るうえで最も重要と言っても過言でない部分が、アトリの行動全てがパターンから学習した感情とは無縁の偽りのものだったという点ですよね。この展開を受け入れられるかがこの作品の評価に直結して来るかと思います。

 

とはいえDMM等の評価を見ても非常に高水準であることから多くの方に受け入れられた展開であるということが伺えますね。短い物語かつ45日と期間が決まっている中でただアトリが可愛いだけで終わったら話としてなにも面白みがなく、抑揚をつけるならどこかで曲げさせる必要があったので、その部分をAIとしての特性を利用するというのは妥当だし自然な展開だったので、上手く落とし込んでくれたなという印象です。

 

もっとも夏生母(アトリ本来のマスター)に仕えていた頃からアトリには心が芽生え始めていたので、全て終わってみれば今までの行い全てが無駄ではなく、アトリを構成する一要素になっていたと考えれば些細な問題として流せますよね。

 

同じAI系統のヒロインでアぺイリア(景の海のアぺイリア)がいますが、あちらは人に近すぎたので、ちゃんとロボ子(ロボット愛護法抵触注意)してたアトリの方がそういった面では気に入ってみれましたね。

 

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余談ですが、オサダさんは私個人としてはもう少し報われてほしいと思いました。

自分と尊敬する博士が人生かけて研究していたものが理不尽な暴走をしたせいで立場を追われ、博士は志半ばで命を落とし、オサダさん自身もその後30年復讐のことだけ考えて生きてきたという設定ですが、あまりに救いがなく、作中でもぽっと出の敵役で終わってしまったのでただただ同情ですね。夏生が自分と重ねてみていたので何もないよりはマシでしたが、敵というより悲しい人という形に見えてしまいましたね。

 

最終的にアトリはエデンにその身を沈め、夏生は前を向き、地球を救うために歩き出すというエンディングでしたね。その後多くの功績を残し、晩年の自身とアトリ(エデン)が最後の一日だけ二人きりで自由に過ごすというのがTRUE ENDでした。

晩年のワンシーンがどことなくさくら、もゆ。千和√と重なって見えましたね。

 

45日をフルに使うのではなく1日だけ残しておくというの中々粋な計らいですよね。

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自身らの最期の瞬間を共に過ごせるというのはこれほど嬉しいこともないでしょう。この作品を知ったときに想定した終わり方に『アトリが消えた後復活する』『アトリが消えた後その残滓のようなものを頼りに主人公が地球を救う』といったものを考えたのですが、後者に近くもその予想を斜め上くらいの着地点を迎えてくれたので、私個人としては非常に満足のいく出来でした。

 

総括

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あくまでノベルゲーム一本としてみるなら話のボリュームは少なくすぐにエンディングを迎えるので、若干の物足りなさはあります。しかしこの作品を¥2,200(1FS)であることを考慮するのであれば非常に高水準なものと言えるでしょう。

(本当にこの価格は安過ぎるくらいです。)

 

空いた時間にプレイしたい、長時間プレイするのは億劫だけど質の良いシナリオを楽しみたいといった方に勧めやすい作品かと思います。

あとこれは私の偏見なのですが、オタクという生き物は結構文明が荒廃した世界を好む傾向があるので、そういった舞台設定が好きな方にもお勧めですね。

 

ここ数ヶ月ブログの更新が滞ってたことからも分かる通り、私は最近読み物系の作品に触れていなかったので、リハビリには丁度良い作品でした。

 

 

ではっ!

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