景の海のアぺイリア 評価 / 感想
景の海のアぺイリアとは
SILKY'S PLUS発のSF物。開発チームはDOLCE。
現代よりも少し先の2045年が舞台で、主人公・桐島 零一は自我を持つAIを作ることを目標に日々部活動を行っています。そんな中未来から来たと自称するメールが届くところから物語は始まります。
義理の妹・桐島三羽と共に実験中落雷により偶然にも自我を持つAIであるアぺイリアの開発に成功するんですね。
アぺイリアは主人公と触れ合いたいという願いを叶えるため、アぺイリアネットワークを駆使して完全没入型VRMMO『セカンド』を作り出します。
しかし、アぺイリアの意思に反して、アぺイリアネットワーク及び『セカンド』の制御が効かなくなってしまい、大きな陰謀に巻き込まれてしまうといったお話。
可能性が可能性に干渉し、別の可能性を作る
完全没入型VRMMO『セカンド』
アぺイリアネットワークが構築した仮想空間。
始めはアぺイリアが零一に会いたいが為に作った空間なので、ただ東京の街並みをコピーしただけでしたが、よりゲーム性を持たせたいという話になり、AI研究会が構想を出し合った結果本格的なMMORPGへと変化していきます。
ゲーム内では、デザイアと呼ばれる魔法を使用することができ、このデザイア能力は"ある行為"や"物"をコストと決め、そのコストに応じた効果の魔法が使えるようになるみたいです。
つまり、仮にコストを水と定めた場合、近くに川があるようなシチュエーションでは、水が容易に供給できるため使用できる魔法の効力は小さいですが、逆に砂漠地帯のように水の供給が困難な場所では魔法はより強力になるといった理屈ですね。
当初このゲームはAI研究会のメンバーのみで楽しむ予定でしたが、アぺイリアネットワークが自動公開してしまったため、多くの一般ユーザーがログインしてしまう形になります。
加えて強制ログアウト = 現実での死亡に繋がってしまう状態にもなるんですね。
言ってしまえばSAOと少し似た状況です。
それではこれより感想に入ります。
本作はシナリオ重視の作品であるためネタバレが致命的となります。
恐らく何書いてもネタバレになるでしょうし、この作品は前情報なしでやった方が絶対に面白いので、感想はネタバレを含んだクリア者向けの記事とさせていただきます。
各ヒロイン感想(ネタバレ有)
桐島 三羽
ツンデレ毒舌義妹。
初対面で顔射されるという驚異的な出会いをするにも関わらず、なんやかんや零一を兄として慕ってくれるいい子。
事あるごとにパンチの利いたdisりを入れてくれるのでドMヘンタイ系オタクの方々に刺さりそうだなとやりながら思ってました。
でもやり過ぎたと思うとちょっと反省した仕草を見せるところもまた可愛らしい。
始めはアぺイリアに対して「でもプログラムですよ?」とあくまでも生命体としてみてない部分があったわけですけど、それはこの子が冷たいからじゃなくて過去の自分の境遇と重ねていたからだったんですね。
母親の狂気のせいで生み出されてしまったクローン体でありながらも母親に愛を求め、応えてもらえないといった描写は胸に重くのしかかるものがありました。
だからこそ零一の三羽を助ける描写には熱くなるものを感じましたしよくやってくれたと思いました。ほんとこの主人公変態で貞操観念崩壊してることを除けばいいやつなんですよね。
零一がアぺイリアをAIなのに人間の実の子ように扱う姿を見て惹かれていくというのは納得だし結果的にこんな変態が兄で良かったですよね。
歪で短い時間ではあったものの、零一やアぺイリアと過ごせた時間は紛れもなく家族のそれだったのだと思います。
零一から受けた愛を母親に返したいと言えたり、セカンド内で零一の血液をコストに光線弾を撃っていると知ったときも引き金を引けたわけですし強がりだけじゃない芯に確かな"強さ"を持った子なんだなと思えるそんな子でした。
っていうのが√終わった段階での感想
まさかの黒幕。(いうほど黒幕してないけど)
実際ヒロインズが死ぬ時間軸になったとき三羽だけ処分されたって聞いただけで実際に死体を確認したわけじゃなかった点は引っかかってたんですよね。でもあれだけ兄さん兄さん言ってデレてたヒロインが実はってのはまあないだろと思ってスルーしてたら全然そんなことありませんでしたね。
ただ今までのやり取りが全部嘘だったとかじゃなくて良かったですよ。
ちゃんと零一を好きなままの可愛い妹だったんで安心しました。
東 ましろ
ゲーマー後輩女子。部活はオンライン部員。
部内SNSでのHNは『ドMヘンタイ』。
「やばば...」「おこだ」といった若者言葉をよく使う子。普通に可愛い。
僕はサイドテールが非常に好きなので、ルックスに関して言えばこの子が一番でしたね。
最初はオンライン部員なのは ゲーマーだし引きこもりだからだと思っていたんですが、白血病でクリーンルームから出られなかったというそういうお話ですね。
思えば最初の時間軸で最も先にデスゲーム化したセカンドにログインしていたのはましろでしたし、この頃は自分の命にそこまで頓着していなかったのかもしれませんね。
臆病で気弱な性格も元からではありましたけど、周囲の人間に苦労を掛けているという負い目がより拍車をかけていたのでしょうね。
事故発生前にタイムリープ後、ましろをジェットコースターに乗せるわけですが、
どこの世界にジェットコースターで言葉攻めするカップルがいるんだよ
普通に病気発症後の願いだったものを叶えに来てくれると思ったらやはりこの主人公上級者だ...。
告白も勇気が足りないのに加え零一に迷惑をかけたくないという思いが見え隠れする気弱なましろらしい可愛らしくも切ない感じでしたね。
でもアぺイリアの為にセカンドに再ログインしたり、√最後のこのシーンからも分かるように自分の身体に降りかかるリスクを百も承知で零一の背中を押す選択ができたこの子の姿はまさに"勇気ある子"のそれであることが分かりますね。
(久遠√に入るためにましろへの想いを断ち切らなきゃいけないというのはなかなか苦しかったです。)
一 久遠
頭ゆるふわ厨二女子。
一と書いて「にのまえ」と読む珍しい名前。
度々語尾に「○○ぞ」というのが特徴。
先輩だけど全然先輩に見えない子。でもたまにお姉ちゃんぶりたい...いいじゃないか(´ー`*)ウンウン
零一とは幼馴染で幼稚園からの仲。こんな可愛い子と幼馴染とは変態主人公羨ましすぎますね。
漫画オタクで調子が出てきたときや照れ隠しをするとき等に内なる闇の眷属が顕現します。
現実にいたら非常にリアクションに困るタイプの人ですね。零一は流石のコミュ力で多少扱いなれてた感じありましたけど。
嘘をつけない理由が母親の想いに少しでも応えたかったからというのもすれ違いながらもちゃんと親子の絆があって微笑ましくなりましたね。
いなくなってからじゃ遅いんだからちゃんと思いは伝えておかないとですね。
零一を甘やかしつつも自分も甘えたい、でも大人にならないと...といった感情がせめぎ合ってる描写を見て乙女やなあと思ってました。
取りあえず一のオジサンが悪い人じゃなくて良かったです。もしそうなら最悪天涯孤独の身になってたところでしたしね。
アぺイリア
零一が開発した自我を持つAI。メインヒロイン。
もうこいつは可愛いに尽きます。
ヒロインズが零一をdisってもこいつだけは裏切らないし、オーナー?って言ってちょこちょこ近づいてくるの想像したら可愛すぎて椅子から転げ落ちますね。
指でバッテン作る立ち絵やジト目の破壊力も凄いですね。
零一が抱きしめてしまうのも納得といった感じです。
新しい感情がアぺイリアの中でいっぱいになると感情の障害という表現になるのAIらしくて良いなと思いました。
零一たちと接して感情を覚えていくことで、少しずつ人間に近づいていくんですね。
観測者側の攻撃目標であり、零一側の最終防衛ラインでもあるため当然常にこの子が軸に物語が動きます。
観測者に狙われながらもどういう風に恋を覚えていくんだろうと思っていましたが、シンカーに最後の1年を与えられることでアぺイリアとだけ向き合う時間ができたというのは上手く落とし込んだなという印象です。
こいつがワンチャン黒幕だったらどうしようとか考えて進めてました。02ルームに記憶を引き継いで行けることを零一に内緒にしていたので他にも何か隠していることがあったらまずくないか?といった具合に。
全然そんなことなくアぺイリアは真っ白なアぺイリアのままだったので良かったですわ。アぺイリアが零一裏切るメリット無いですし何より零一大好きですもんね。
なんにせよ生まれたのがAIを一つの命と考えてくれる零一の元で良かったですよね。
この変態の隣にいられたことがアぺイリア一番の幸せだと思いました。
シナリオ感想(ネタバレ有)
最高でしたね。
これだと思った仮説を次々越え、さらに上の展開を見せてくれる素晴らしいシナリオでした。
僕は頭使う心理戦の描写が非常に好きなオタクなので、シンカーとの騙し合いの連続はどストライクでした。どこまで本気なのか、どこに嘘を入れてるのかを考えながら読み進め、後々答え合わせが来たときのワクワクと高揚感といったらもうないですよ。
味方のふりしてやっぱ敵だろそうだよなと思わせてあれ?味方...あ、やっぱ敵なのかと二転三転する関係がより緊迫感を生みましたね。
そしてファーストからセカンドにログインし、迎えた最終戦
「......アぺイリア......今度こそ、お前を守る」
散り際本当に格好良かったです。
最後の最後で株を爆上げして来るとはね。聞くところによるとシンカーは人気投票1位だったみたいですね。そらこんなの見せられたら誰でも好きになっちゃいますよ。
「最後の最後まで観測者に勝利を確信させたまま、俺たちが勝利する」
まさかましろ√の一連の流れ全てさえもこのための布石とは恐れ入りました。完全に予想を越えられましたね。
シンカー絡みの他にも
- 主人公含めた殆どの人間が、人間ではなくAIだった
- 現実だと思ってた世界は現実ではなく実は仮想世界『ファースト』だった
といった点にも素直に驚かされましたね。「シンカー = 零一」や「観測者 = 三羽」辺りは薄っすらと予想しながら進めてたんですけどこれらシミュレーション仮説に関しては流石に予想外でした。
確かに何でアぺイリアネットワークが作ったVRMMOの名前が『セカンド』なんだろうとは思いましたけど"第二の現実"だからで片づけられたら普通に納得しちゃいますって。
タイムリープも世界が初期化され再構築していたからっていう発想は珍しいなって思いましたしこの世界観なら普通に説得力ありますよね。02ルームが影響を受けないとはいえ何故02ルームからの移動がメール送信の様な明確な行動ではなく時間経過によって自動で起きるんだろうと思っていたのですっきりしました。
要はファースト内サーバーの初期化が行われてる間の待機場所というそういうお話ですね。
一見スルーしてしまいそうなことが実は伏線だったり、序盤にチラッと見せたアイテムを中・終盤で活かしたり緻密にデザインされたシナリオなのだなと改めて惚れ惚れしました。
多少解説が長ったらしいなと思うところもありましたけど矛盾なく進めるために必要なことだったと思えば分かりますしそこまで気にするほどでもなかったかなという印象です。
なんにせよ(プレイ時間30時間くらいありましたが)3日でクリアしてしまうくらいには面白かったです。
総括
今年プレイした江戸ゲの中ではトップの面白さでした。
笑いありシリアスありで考察しながら読み進められるので、シナリオ重視の作品を求めている方には胸を張って勧められる作品だと思います。
強いて言いたいことがあるとすれば
- 過去ログの遡れる量が少なかったこと
- バックログジャンプができなかったこと
くらいでしょうか。本作は結構文章量が多く、読み疲れやすい作品なのでこの辺りのシステム面がより充実していればもっとプレイしやすかったかなという思いはありました。
ファンディスク・カサブランカの騎士の用意もあるので、余韻が落ち着いたら手を付けていきたい次第です。
こちらの感想記事も是非書いていきたいですね。
ではっ!